何か変?(短編小説)

 

あらすじ

俺は中学2年の野球部員。バレンタインデーの翌朝、自転車で学校へ向かった俺は何か変だと感じ始めた。昨夜蹴っ飛ばして壊したはずの植木鉢が元通りになっていて、周囲はまるで夜のように暗くなってきた。実は前日、俺は学校である事件を起こしていた。親友の徹平に謝らなければ。学校に着いて徹平に出会った俺は凍り付いてしまう。ミステリー風の心温まる(?)物語。

 

登場人物

竜士:主人公。中学2年生。エースで四番の大柄な野球少年。

徹平:竜士の親友。中学2年生。万年補欠の小柄な野球少年。

 

 

あ〜あ、よく寝た。朝だ。6時だ。

俺はいつものように布団を蹴って起き上がる。

やっぱ徹平に悪いことしたなぁ。

バレンタインデーだった昨日のことを思い出し、俺の胸はチクリと痛む。

あいつケガしなかったかな。手加減したし大丈夫だよな。

母ちゃんがつくっておいてくれた朝飯を食ってカバンを持って家を出る。

自転車を出す時、何か変だなと思った。

昨夜蹴っ飛ばして壊したはずの植木鉢が元通りになっている。

まあそれはよいとして、暗い。

自転車をこぎながら昨日のことを思い出してみた。

        ×   ×   ×   ×   ×

俺は麻衣ちゃんが好きだった。美人で可愛いかったから。

麻衣ちゃんも俺のことが好きだと信じて疑わなかった。

なのにどうして麻衣ちゃんは俺にではなく徹平にチョコをあげたんだろ。

エースで四番の俺ではなく万年補欠の徹平なんかによ〜。

めっちゃむかついた俺は徹平が小便に行ったすきに食ってしまったのだ。

麻衣ちゃんが徹平にあげた手作りチョコを。

まあ、結論から言うと、まずかった。苦いし、形悪いし、小さかったし。

小便から帰ってきた徹平が激怒して俺を追いかけてきた。

あんなにしつこくなかったら俺だってボコボコになんかしなかったのにな。

手加減はしたけど、やっぱ俺が悪かった。

学校に着いたら朝練の前にちゃんと謝ろう。

昨夜スーパーで半額になっていたバレンタインチョコを俺は買った。

これさえあれば仲直りできるはずだ。

        ×   ×   ×   ×   ×

学校に着いた。門が閉まってる。

それにさっきよりも暗い。まるで夜みたいっちゃ。

なんで? 野球部の朝練休み? 連絡網まわってないけど。

俺は自転車を校門の前に置いて、門をよじ上った。

門灯に照らされた周りの景色が微妙に違うような気がする。

校庭がなんかいつもよりきれいに片付いてるじゃん。

飛び降りると足首がグキっと。

痛っ。いつもより体が重いような。

        ×   ×   ×   ×   ×

教室に入って電気をつける。

誰もいない。

チョコ以外に徹平の機嫌をなおせることってなんだろう。

今度の日曜の公式戦でレギュラーになることか。

しかしたとえ俺が休んだとしてもあいつがレギュラー取るのは難しいだろな。

バッティングのコツをもっとちゃんと教えてやらないと。

高校に行ったら、一緒に甲子園へ行って優勝して喜ばしてやろう。

いや、なんだこれは。俺の机の上の落書きが昨日と違っているぞ。

おれは少し前に読んだSF漫画を思い出してぞっとした。

自分以外の人間や物が、わけのわからんものに置き換わってたちゅうやつ。

コツコツと何者かの足音が聞こえてきた。

やってやろうじゃん。俺は走って廊下に出た。

        ×   ×   ×   ×   ×

七十才位の爺さんが歩いて来るのが見えた。

おもいっきし勇気を出して俺は尋ねた。

「あんた誰なんだよ。宇宙人か?」

俺の声は裏返っていた。

「竜君。僕だよ」

「誰?」

「徹平。杉山徹平」

「はあ?」

一瞬の後、俺はぷっと吹き出し、大声で笑ってしまった。

「バカな。あんたが徹平のわけないっしょ」

「竜君、横を見てごらん。鏡があるから」

横を見て俺は凍りついた。

俺によく似た大柄な老人の姿が見えたのだ。

「うわっ、誰なんだよ、こいつは」

「君だよ」

「なんだって」

鏡の中の老人は俺と同じように驚いた顔をしていた。

「ウソだ。俺はこんな年寄りじゃないっ」

徹平と名乗った方の老人は俺に近づいて来て言った。

「竜君。今は2070年で、僕たちは74才になったんだよ」

「そんなわけがない。俺たちは今、中2で…昨日はバレンタインデーで」

でも、老人の顔はまさに徹平そっくりでウソをついている風ではなかった。

「俺、頭が変になったのか? 認知症とか?」

徹平は悲しそうにうなずいた。

ガーンと頭を殴られたようなショック。

老人は、いや徹平は気を取り直したように言った。

「竜君はすごかったんだよ」

「なにがだ?」

「甲子園へ行って優勝したし、プロ野球選手にもなったし」                       

「ちょっと待て。その前に今度の日曜の荒川中との公式戦はどうなった?」

203で圧勝した」

「そうか。よかった。それでおまえはレギュラーとれたのか」

「いや。僕さ、竜君に殴られて肋骨骨折したから1ヶ月学校休んでたんだ」

「え。じゃあ、俺はチョコを渡せなかったのか」

「うん。だから竜君はそのことがずっと心に引っかかってたんだろうな」

「なんてこった。それから俺はどうなった?」

「野球選手を引退してから俳優やK1選手としても活躍して」

「いい人生だったんだな」

「うん。でも」

「なに?」

7回も結婚して離婚して全財産を最後の奥さんに巻き上げられたんだ」 

「はっはっは。バカな俺。それから?」

「55才の時に交通事故に会って脳に機能障害を起こして」

「頭がおかしくなっちまったのか。で、俺とおまえの関係はどうだったのよ?」 

「ずっと親友だったよ。そして僕は君のためにあるものをつくった」

「なに?」

「バーチャル回想システム。会社組織にして結果的に大もうけした」   

「バーチャル回想システムってなにさ?」

「今、君と僕がいるこの世界のことさ」

この世界は本物じゃないということか。

「失敗じゃないのか。これ。なんでこんなに暗いんだよ」

「竜君が朝と夜を間違えたからシステムエラーが起きちゃったんだ」 

「朝と夜を間違えた?」

「そうだよ。じゃもう一度やり直してみるよ。いいかい」

「ああ」

        ×   ×   ×   ×   ×

あ〜あ、よく寝た。朝だ。6時だ。

俺はいつものように布団を蹴って起き上がる。

やっぱ徹平に悪いことしたなぁ。

バレンタインデーだった昨日のことを思い出し、俺の胸はチクリと痛む。

                           (おわり)