「お兄ちゃんの大切な人」 

<登場人物>
エリカ:主人公。高校2年生。勝ち気な美少女。
涼介:大学1年生。優しい性格のイケメン。
翼:17才。陰のある美少年。涼介の大切な人。
その他、エリカの両親や友達など。


部屋の中
  小学3年生位の女の子2人と小学5年生の男の子1人
  が、あり合わせの服や手作りの王冠、マント代わり
  の風呂敷を使ってお姫様ごっこをして遊んでいる。
涼介「姫様、助けに参ったでござるよ」
エリカ「ダメよ、お兄ちゃん。クリストファーは水戸黄
 門じゃないんだから。『助けにきましたよ』だよ」
涼介「あ、そうか。(頭をかいて照れて)ごめんごめん」
エリカ「じゃ、次、いくわよ。お姫様だっこをする場面」
涼介「わかった。(抱き上げ)うんとこどっこいしょ〜」
エリカ「なによ、そのかけ声は。お爺さんみたい。やり
 直してちょうだい」
  きゃはははと笑うエリカの友達。

○  エリカの自宅付近
  高校2年になったエリカが家に向かって歩いている。
エリカ(M)「大好きなお兄ちゃんが帰ってくる。大切な
 人をつれて来るって言ってたけど。なんかすごくイヤ」

○ 家の中(玄関付近)
エリカ「ふぅ、ただいま。どうしたのお母さん」
母「(おろおろして)大変なの。ほんとにもう」

○ 家の中(居間)
  エリカがドアを開けて入ろうとすると、父の怒鳴り
  声がドアの外まで響き渡る。
父「バカもの、同棲しているだと。おまえはこの春に大
 学に入って一人暮らしを始めたばかりじゃないかっ」
エリカ「(慌てて中に入り)お父さん、興奮しないで」
  兄の隣に座っている翼と目が合うエリカ。  
涼介「あ、エリカ。紹介するよ。こちら翼君」
エリカ「えっ、お兄ちゃんの大切な人って男の子なの?」
翼「は、初めまして」
父「とにかくだな、君のご両親はなんとおっしゃって…」
翼「父は生まれる前からいません。母は…僕が殺しまし
 た」
父「なんだってぇ〜。絶対に許さんぞ、この結婚は」
涼介「結婚なんて一言も言ってないよ。翼が行きたいと
 言っている調理師学校の学費を貸してほしいと」
母「あなた、板前さんになるつもりなの?」
翼「はい。涼介さんに美味しいものを食べてほしくて」
エリカ「そんなことより、私はあなたがお母さんを殺し
 た理由を知りたいわっ」
涼介「(翼に)服、脱げよ」
翼「いやだよ。いやだって」
  むりやり翼のシャツを引っぱがす涼介。
  ヤケドや切り傷が無数についた翼の上半身が現れる。


回想・翼のアパート
  翼が母親から熱湯を浴びせられたり、フライパンで
  頭を叩かれたり、けられたりの虐待を受けている。
  思いあまって母の腹部を包丁で刺してしまう翼。


回想・歩道橋の上
  歩道橋の上から飛び降りようとしている血だらけの
  翼を、通りかかった涼介が捕まえる。
涼介「やめろ。死ぬんじゃないっ」

○ 家の中(居間)・もとの場面
  震える翼の目から涙がポタポタと床に落ちている。
涼介「翼は、虐待を受けていたことが認められて、保護
 観察処分で済んだんだ」
父「ほお、おまえはいつから保護司になったのかね?」
母「面倒なことは専門家におまかせすればいいのよ」
エリカ(M)「(考えこんでいる様子で)お兄ちゃんは、
 可哀想なお姫様を助けた王子様のつもりなのかな」
涼介「もういい。バイトを増やして僕が金を用意するか
 ら。翼、もう帰ろう、僕らのマンションに」
  部屋を出る涼介と翼。

○ 家の外の路上
  エリカが走って来て何かを涼介に手渡す。
涼介「なに?」
エリカ「私のキャッシュカード。50万円位入ってるわ。
 ずっとお年玉を貯めてきたから」  
涼介「いいのか エリカ」
エリカ「うん」
涼介「ありがと。きっといつか返すよ」
エリカ「(翼に)料理、上手になったら食べにいくからね」
  はにかんでうなずく翼を涼介が笑顔で見守っている。

                       (おわり)