「テロリストとの約束」(改稿・さとうひろき)

            原作・月川拓海
          改稿・さとうひろき

改稿版での主な変更点は以下の通り
 ・想定ページ数 (62 ページ / 原作と比較して行数は 2 倍近いっス)
 ・会話全般
 ・旬が回想シーンに登場
 ・テロリスト、機動隊、若干肉づけ
 ・アクション増
 ・トシとサキは兄妹
 ・最後のヘリはナシ
   ・ 約束のタイミング

随分、素敵ななストーリーになりましたよ。
話の流れがとても自然で、月川独特の変な部分が無くなっていますね。
作画家さんは描きやすくなったと思います。


<主要登場人物>

聡 :平和主義の少年。
ケイ:テロリストグループ「苦界浄土」の一
   員。
旬 :ケイの後輩。性暴力の被害者で、転落
   死した。
サキ:ケイの仲間。少女。
トシ:サキの兄。青年。

<本文> N=ナレーション
  ○ 孤児院・庭

   美しい光景。
   白い大きな家。自然でいっぱいの庭。
   旬、茂みにもぐりこんでいる。
ケイ「旬、見っけ!」
旬「うふふふ」
ケイ「なんだよ、うれしそうだな」
旬「ケイ兄ちゃんならぜったい見つけてくれ
 るって思ってたもん」
ケイ「ばか。見つからないように隠れるんだ
 よ」
旬「いーのっ」
   旬、ケイにぎゅーっと抱きつく。
ケイ「罰ゲームだ」
   ケイ、旬をくすぐる。   
旬「きゃっきゃっ」
   笑い続けるふたり。
   (フェードアウト)

  ○ 学校・正門前

   新聞一面「初の三桁 テロ拡大鮮明に」。
   停車中のバン。
   トシ、ハンドルに足をかけ、新聞を広
   げている。
   座席、ちらかり放題。
ラジオ「——法改正を受け、国際社会は一定
 の評価を下しています。しかし、いくつか
 の失態を見せてきただけに、共闘できるパ
 ートナーとしての信頼を得るには、テロと
 の戦いでどれだけ毅然とした態度を示せる
 かが焦点と言えそうです——」

  ○ 学校・校舎裏

   聡がふたりの生徒にいじめられている。
生徒A「(聡の髪をつかみながら)おら、や
 めさせてみろよ。話し合いでよ」
聡「うう」
   生徒B、聡のお尻を蹴る。
聡「やぁっ。やめて」
生徒B「へっ、女みたいな声出しやがって」
生徒A「ズボン脱がしてみようぜ」
聡「い、いやぁっ」
生徒B「へっへっへ——ふごっ!」
   生徒B、ズボンを下げかけたところで
   頬に衝撃を受けて吹っ飛ぶ。
   (注:横からケイが蹴った)
ケイ「やめとけよ」
生徒A「なんだぁ、てめぇ!」
   ケイ、無言。
生徒B「(鼻血をおさえながら)くそったれ!
 おい、やっちまおうぜ!」
ケイ「怪我するぜ」
生徒A・同B「うるせぇ!」
   生徒A、同B、ケイにかかる。
   ケイ、ふたりをおもくそぶん殴って地
   面に転がし、さらに足蹴り。興奮して
   おり、さらに一撃。
聡「(あわててケイにしがみついて)や、や
 めて! もういいよ! やりすぎだよ!」
   ケイ、我に返る。聡を一瞥。
   聡、懇願の表情。
ケイ「(生徒A、同Bを見下ろしながら)二
 度とこの子に手を出すな。わかったか」

  ○ 学校・体育館入り口

   館内、元気な声。
   校庭側の入り口。
   聡、階段に座り、ケイ、後ろに立って
   いる。
聡「転校生?」
ケイ「(顔をそらして)ああ。今日は下見」
聡「一年生でしょ? 同じクラスになれたら
 いいね」
ケイ「そうだな」
聡「さっきはありがと。よくいじめられるん
 だ」
   ケイ、聡を見下ろす。
   (注:聡は背中を見せている)
聡「(足元を見つめながら)ボクね、国連の
 職員になるのが夢でさ。平和クラブをやっ
 てるんだ。部員はぼくだけなんだけど」
   聡、ぱっとふりかえって、ケイを見上
   げる。
聡「ねっ、君も入らない?」
ケイ「入らない」
聡「(手をパタパタ広げたりしながら)平和
 を祈るだけでもいいんだよ。賛助会員とか」
ケイ「(また、顔をそらして)意味ないよ」
   聡、立ち上がる。
聡「そんなことないよ。いじめも戦争も、は
 じめは心の中の問題なんだよ。皆が心の扉
 を開いて分かり合えば——」
   聡、輝く顔。
   ケイ、聡をまぶしそうに見やる。
ケイ「(唐突に)いい顔してる」
聡「(ムッとして)やめてよ。女みたいだっ
 て言うんでしょ。それより、平和について
 語り合おうよ」
ケイ「あ——あさって、あさってにしようぜ」
聡「? 明日は来ないの?」
ケイ「まだな。そうだ、お前も明日は学校休
 めよ」
聡「どうして?」
ケイ「その、さっきの奴らに仕返しされるか
 もしれないだろ? オレがいないと」
聡「あ、そうかも」
ケイ「決まりだ。明日は学校に近づくんじゃ
 ないぞ」

  ○ 学校・正門前

   夕方。
   聡、手をふりふり、遠ざかる。
   バン、ケイに近づく。
トシ「何だ、あれ?」
ケイ「平和主義者」
トシ「ぷっ」
   ケイ、バンに乗り込む。
トシ「見取り図の通りだったか?」
ケイ「ああ」
トシ「じゃ、予定通りだな」
   ケイ、頬杖をつき、学校を睨む。

  ○ テレビ局・報道部オフィス

N「翌朝——」
   ガヤガヤしたオフィス。
   FAXが届く。
   (注:テロリストグループの犯行声明)
   局員A、コーヒーを呑みながら、紙を
   とる。
   一読してコーヒーを吹く。
局員A「(オフィスに行き渡る大声で)お
 いっ!」

  ○ 学校・体育館

   体育館内に全校生徒が集まっている。
   テロリストグループ「苦界浄土」メン
   バー二十人弱、館内外周を囲う。
   ケイの姿。
   校長、壇上に立っている。
   テロリストA、校長の横に立ち、マイ
   クを握る。
テロリストA「全員いるかな〜? 撮影[#
 「撮影」に傍点]が終わるまでがまんして
 ね〜」
生徒C「出演料は〜っ?」
生徒D「あたし、人質の役やりた〜い!」
生徒E「おれ、殺し屋!」
   人質にされていることに気がつかない
   生徒たち。
校長「(小声で)どうする気だ? 目的はな
 んだ?」
テロリストA「(ドスの効いた声で)黙って
 な」
  ケイ、冷たい目で教員や生徒を見回す。

  ○ 学校・にわとり小屋

   聡、水箱をおく。
聡「またね、にわとりさん」
   聡、あわてて体育館へ走る。
聡「朝礼、やってるよ〜」

  ○ 学校・体育館

   テロリストB、壇上のテロリストAに
   耳打ち。
テロリストA「なめやがって。爆破の準備し
 ときな」
   テロリストB、下の仲間に合図を送る。
   テロリストC、ケイの元へ。
テロリストC「おい、はじめるぜ」
ケイ「了解——」
聡「ご、ごめんなさい! 遅れましたぁ」
ケイ「——あ、あいつ!」
   聡、すごすごと入ってくる。
   ケイ、あわてて聡へ走り寄る。
ケイ「(小声で)おい! 何でここにいる!」
聡「あれ——ケイ?」
ケイ「来るなって言っただろ!」
聡「ごめん。飼育当番で。ね、映画の撮影
 だって? ケイ、かっこいいね」
ケイ「(能天気さにイラっとして)ちょっと
 こい!」
聡「でも、朝礼が」
   テロリストCが近づく。
テロリストC「おい、何やってんだ」
ケイ「こいつに用があるんだ。連れてくぜ」
テロリストC「だめだ。勝手な行動は——」
   ケイ、テロリストCを殴り倒す。
聡「ケイ!」
テロリストD「(銃を構え)お前!」
   ケイ、テロリストDの腕を打ち抜く。
テロリストD「おああああっ!」
ケイ「来い!」
   ケイ、聡の手を引いて駆け出す。
テロリストA「野郎ぉーっ!」
   テロリストA、壇上からケイめがけて
   機関銃を撃つ。
生徒「きゃあああーっ!」

  ○ 学校・渡り廊下

  先を走るケイ、すぐ後ろに聡。
聡「ど、どういうことなの?」
ケイ「撮影は嘘だ。体育館は爆破される」
聡「何を言ってるの?」
ケイ「政府が要求を呑まない。見せしめだ」
聡「要求?」
ケイ「オレは『苦界浄土』のメンバーだ」
聡「そ、それって」
ケイ「テロリストだ」
   一瞬、思考の空白。
   聡、ケイの手をはねのけ、停止。
聡「ひどいよ!」
   聡、涙を散らして抗議の叫び。
   聡、引き返そうとする。ケイ、手を掴
   んで止める。
ケイ「どこに行くんだ!」
聡「みんなを助けなくちゃ!」
ケイ「お前に何ができるんだよ!」
聡「はなして!」
ケイ「行くな! せっかく助けてやったんだ
 ぞ!」
   ケイ、聡を倒す。
聡「ボクだけ助かるなんてそんなこと!」
ケイ「お前が行っても殺されるだけだ!」
聡「ほっといてよ!」
   床でもみくちゃになる二人。
   ケイ、あおむけに倒れた聡の両腕を押
   さえる。
   銃声、怒号、悲鳴が響いてくる。
   窓の光がまぶしく、ふたりは影の中。
   聡、泣いている。
   ケイ、聡の泣き顔を見つめている。

  ○ 孤児院・暗い部屋

ケイ「どうしたんだ?」
   片隅で旬が泣いている。
ケイ「旬。話せよ。どうしたのさ」
   旬、屈みこむケイにしがみついて、た
   だ泣き続ける。
   (フェードアウト)

  ○ 学校・渡り廊下

ケイ「——わかった。オレが行く」
聡「!」
ケイ「仲間を裏切ったんだ。どのみち、殺ら
 なきゃ、殺られる」
聡「だめ! ちがうよ、そんなの。話し合う
 んだ!」
ケイ「そんな相手じゃないんだよ」
聡「そんなこと——」
ケイ「お前はどこかに隠れていろ! いい
 な!」
   ケイ、体育館へ走る。
聡「待って!」
   流れ弾で近くのガラス窓が割れる。
   聡、あわてて近くの教室へ。

  ○ 学校・正門前

   正門、パトカーが数台。
   取材ヘリ、上空を旋回している。
   現場指揮官、無線で会話。
現場指揮官「たびたび銃声が聴こえます。マ
 ズイですよ」
対策本部「交渉を続けろ。だが、退くなよ」
現場指揮官「了解」

  ○ 学校・教室

   聡、うずくまって泣いている。
   銃声や悲鳴が響く。
聡「(耳をふさぎながら)ひどい、ひどいよ、
 こんなの」
ケイ(回想)「二度とこの子に手を出すな」
聡「——」
ケイ(回想)「明日は学校に近づくんじゃな
 いぞ」
聡「——」
ケイ(回想)「せっかく助けてやったんだ
 ぞ!」
聡「ケイ——」
   突然、教室の戸が開く。
聡「!」

  ○ 学校・体育館

   ケイ、館外で攻めあぐねている。
ケイ「くそっ——散らねえ」
   腰のトランシーバーに受信。
トシ「ケイ、聴こえるか?」
ケイ「トシ?」
   ガン、ガンという音。
聡「痛いっ!」
ケイ「聡っ! くそ! どこだ!」
トシ「お前がこいつを置き去りにしたところ
 だよ。急げ」

  ○ 学校・教室

   サキ、聡の頭を壁に叩きつける。  
聡「う——」
サキ「お前のせいでケイが裏切ったんだ!」
トシ「こいつ、どことなく旬に似てるな」
サキ「(カッとなって)ちくしょう!」
   サキ、聡の頬をはたこうとする。
   トシ、いきなりサキを押しのけて、ド
   アに向けて銃を二、三発撃ち込む。
   次いでドアを蹴り壊す。
   ケイ、肩をおさえて屈んでいる。
   (注:ケイの気配に気づいて、トシは
      先手を打った)
サキ「ケイ——」
トシ「裏切り者がどうなるかわかってるよ
 な?」
ケイ「——死の儀式か」
サキ「(こぶしをぎゅっと固めながら)そう
 よ——覚えてるでしょ? 『苦界浄土』の
 本部で見たこと。内臓を引きずりだされ
 て——」
ケイ「(冷静に)お前らがやるのか」
トシ「ああ。でなきゃ、今度はおれらの番だ
 からな」
サキ「こんなやつのために!」
   サキ、聡の髪を掴んで、のけぞらせる。
聡「あっ」
   ケイ、サキの腰のナイフに視線を走ら
   せる。
トシ「言い残すことは?」
ケイ「サキと——キスしたい」
サキ「!」
トシ「ひゅうっ! どうする?」
サキ「——いいわ」
   サキ、聡を放す。
   聡、崩れ落ちる。
聡「ケイ——」
   トシ、サキについて動き、ケイに銃を
   構えている。
   サキ、ケイに近づき、傷ついた肩にふ
   れる。
ケイ「っ!」
サキ「(悲しそうな目で)ほんとうに、何で
 こんなこと」
ケイ「目を閉じろ」
サキ「はじめて?」
ケイ「ああ」
サキ「あたしも——」
   抱き合うふたり。
   トシ、サキの腰のナイフにケイの手が
   ゆくのに気がつく。
トシ「離れろ!」
   ケイ、ナイフを素早く引き抜いて、サ
   キの腕を捻り、ナイフはサキの首へ当
   てる。と、同時に聡とトシの間へ机を
   蹴り倒す。
   (注:聡が撃たれないように)
ケイ「武器をよこせ。懐のもだ」
サキ「あ、兄貴」
   サキの首に血がひとすじ流れる。
   トシ、ケイの足元に拳銃を滑らせる。
   ケイ、サキをトシへ突き飛ばして、拳
   銃を素早く確保。銃をふたりへ突きつ
   けたまま、聡のそばへ。
ケイ「大丈夫かっ?」
聡「ケイ——ごめんね。ごめん」
   ケイ、黙って聡の頭をなでる。
   サキ、トシに抱えられながら、虚ろな
   目でふたりを見つめる。

  ○ 学校・体育館

テロリストA「うおおおおぁぁぁーっ!」
   テロリストA、天井に向けて機関銃を
   乱射。
   弾が切れ、辺りが静まる。
   びびってこちこちの人質たち。
テロリストA「——時間だ」

  ○ 学校・正門前

現場指揮官「今の音は!」
部下A「隊長! 配置完了しました!」
現場指揮官「本部!」
対策本部「突入を許可する!」

  ○ 学校・教室

   ケイは聡を抱え、トシはサキを抱え、
   すこし離れて座り込んでいる。
聡「ケイ——どうしてテロリストになっ
 ちゃったの?」
ケイ「——孤児院にいた頃、弟みたいにくっ
 ついてくるやつがいてさ。優しくてさ。お
 前みたいなきれいな顔をしてた」
   サキも、涙を浮かべて聴いている。
聡「(抗議の意で、弱々しく)もうっ」
ケイ「——でも、死んじまった」
聡「え——」
ケイ「孤児院の院長に乱暴されたんだ」
トシ「あれ? オレもいたよな? 初耳だぜ」
ケイ「旬は、ずっと泣いてたよ。それで、何
 日か後、ベランダから飛び降りて、自殺し
 たんだ」
   サキの涙があふれる。
聡「その院長は——」
ケイ「——殺した。銃を手に入れた、その日
 に」
聡「ケイ、泣いてるの?」
   聡、ケイの頬に手をやる。
サキ「違うの——」
   ケイ、サキのほうを向く。
ケイ「サキ?」
サキ「違う。あたしなの。あたしがツバメの
 ヒナを巣からとって、旬に戻してみろって
 言ったの——それで——」

  ○ 孤児院・ベランダ

旬「サキ、ひどい!」
   旬、ツバメのヒナを抱えている。
サキ「あんたを殴るとケイが怒るから、かわ
 りにそいつでウサを晴らしたのよ。あんた
 のせいでしょ? 責任とって、巣に戻して
 あげなさいよ。それとも、院長さんに言っ
 てあげようか? 旬がツバメのヒナを落っ
 ことしちゃったって」
   (フェードアウト)

ケイ「おまえ!」
サキ「旬が羨ましかったの。ケイを一人占め
 して」
   ケイ、怒り狂って立ち上がろうとする。
   聡、ケイを掴む。
聡「ケイ!」
ケイ「放せ! くそ! 殺してやる!」
聡「だめだよ! やめてよ! もうやめて!」
ケイ「旬は! あいつは! あんなに笑って
 たのに! あんなに! 放せよ! 殺して
 やる! 殺してやる!」
聡「殺して殺して——なんになるのさ!」
ケイ「旬——旬は——もう抱きしめてやるこ
 ともできない」
   ケイ、涙をいっぱいにためている。
   聡、ケイを後ろから抱きしめる。
聡「ボクがいる。ボクが——いるから」
ケイ「うっ——うううっ——」
   聡、ケイ、崩れ落ちる。
   トシ、安堵のため息をつく。
   突然、トランシーバーから通信が入る。
テロリストA「『苦界浄土』の仲間たちよ!
 交渉は決裂だ! 共に神の御許へゆこう!」
ケイ「時間か」
トシ「今なら逃げられるぞ。ここなら爆発に
 は巻き込まれない」
ケイ「オレを見逃すのか?」
トシ「いっしょに行くって言ってんだよ」
聡「ケイ、体育館の皆は——」
ケイ「——だめだ。間に合わない」
聡「(泣く)ううっ」
サキ「(虚ろな目)——」
トシ「もう突入かかってんだろ。爆発と同時
 に裏門から脱出だな」
ケイ「ああ」
サキ「——だめよ」
トシ「サキ?」
   サキ、迷彩服のボタンを外す。お腹に
   爆弾が巻きついている。
ケイ「サキ!」
トシ「おいおい、シャレにならねぇ——」
サキ「ごめんね、ケイ、兄貴——」
   トランシーバーから大声。

  ○ 学校・体育館

テロリストA「神の御許へ!」
   外には、突入中の特殊部隊。
   伏せたり、逃げ出そうとしたりする人
   質たち。

  ○ 学校・教室

   ケイ、机を引き寄せて聡に覆い被さる。
聡「ケイ!」
   サキ、目を閉じ、涙を流している。

  ○ 学校・体育館

   テロリストA、爆破スイッチを押す。

  ○ 学校・校庭

   教室付近の壁が内側から吹き飛ぶ。周
   囲のガラスも割れる。

  ○ 学校・体育館

   体育館の外壁、屋根が吹き飛ぶ、大爆
   発。
   破片が木に突き刺さったり、駐車場に
   降り注いでガラスが激しく割れる。

  ○ 学校・正門前

   燃え上がる体育館や校舎の熱気に呆然
   とする人々。
現場指揮官「くっそおおおおぉぉぉぉっ!」
   現場指揮官、空に向かって吠える。

  ○ 学校・教室

   黒こげの室内。
   瓦礫の山。
   天井からパラパラと屑が落ちる。
   ふたりの少年が倒れこんでいる。
聡「うっ——」
   聡、ぴくっとするが、目覚めはしない。
   ケイは、血だらけのまま、聡の上に覆
   い被さっている。
   すでに、息はない——

  ○ 聡の部屋

N「数日後——」
   聡、ベッドに仰向けになり、天井を見
   つめている。
   手や顔に絆創膏をしているが、大した
   怪我はしていない。
   目は虚ろ。
ラジオ「——病院で死亡し、これで、犠牲者
 の数は百九十二名となりました。日本にお
 ける史上最悪のテロ事件となり、警察、お
 よび政府の責任の追及は避けられない状況
 です——」
聡(たくさんの人が死んだ。でも、ニュース
 の犠牲者に、ケイは入っていない)
聡(命をかけてボクを守ってくれた——助け
 てくれた)
聡(生きていたくない)
   聡、涙を浮かべる。視界がぼやける。
聡(ケイに——会いたい——)
ケイ(——聡)
   聡、窓のほうを見る。
   風に揺れるカーテン。
聡「まただ」
聡(ケイのことが頭から離れない)
   だんだんと視界がはっきりする。
   カーテンの横、天使のような羽根を生
   やしたケイが、髪を揺らして立ってい
   る。
ケイ「聡」
聡「ケイ?——ほんとうにケイなの?」
ケイ「会いに来たんだ」
聡「ケイ! よかった! 生きていたんだ!」
   聡、ケイに抱きつこうとするが、体が
   すり抜けてしまう。
   ケイ、すまなそうに笑う。
ケイ「ごめんな」
聡「ボクの——ボクのせいだ」
   聡、涙を浮かべる。
ケイ「違うよ。お前を守れてよかった」
聡「——うっうっ」
ケイ「ちゃんと生きろよ。せっかく助けて
 やったんだからな」
   ケイ、ニカっと笑う。はじめて見せる
   晴れ晴れとした笑顔。
聡「ケイ——」
ケイ「もう行くよ」
聡「もう?」
ケイ「もうひとり、かまってやらなくちゃい
 けないやつがいるんでな」
聡「——旬君!」
   ケイ、ほほ笑みながら、うなずく。
   (注:「おまえのおかげさ」の意も)
聡「また会える?」
ケイ「おまえがオレのことを思い出せばいつ
 でも会える。いつだって、会いに行くよ」
聡「ほんとに?」
ケイ「ああ、約束だ」
聡「約束——」
   (フェードアウト)
   聡、ベッドに仰向けになっている。目
   尻には涙の跡。
   ドアが開き、母親が入る。
母「仮校舎での授業、本格的に始まっている
 そうよ。聡も、そろそろ行ってみない?」
   聡、起き上がり、涙の跡を拭く。
   窓の外へ笑顔を向ける。
   ほほ笑んで天へ昇るケイの姿。
聡「(元気を取り戻して)うん!」

               (おわり)

 

おまけ:さとうひろき氏による「テロリストとの約束・原作の分析」

さとうさんが月川の漫画原作「テロリストとの約束」を分析してくれたので、
漫画を勉強中の方の参考になればと思い、ここに掲載しておきます。

 ○ テーマの確認

 ・少年同士の心の触れ合い
 ・命をかけて大切な人を守ろうとする思い


 ○ 作中の主な心理描写

●…描写できているもの
△…この描写が抜けていると感じたもの

<聡 X ケイ>
●聡:いじめから救ってくれたケイへの好意
●ケイ:聡に旬の姿を重ねる
●聡:ケイをなぐさめたい気持ち
△聡:ケイに惹かれ“つづける”理由

<ケイ X サキ>
●サキ:ケイへの一方的な感情
△サキ:ケイが好き、またはそうでない描写

<ケイ X 旬>
●ケイ:旬を弟のように愛した
●ケイ:旬を幸せにできなかった自責の念
●ケイ:旬を失った悲しみ
△旬:ケイに対する思い

<サキ X 旬>
●サキ:旬への嫉妬

<聡 X 旬>
△聡:旬に対する思い


 ○ 足りなかった心理描写

<聡のケイに惹かれ“つづける”理由>

 いじめから救ってもらって、感謝の気持ち
や好意を抱くのは自然。でも、それ以上の態
度でケイに接する“じぶんからの動機”が弱
いと思う。「国際平和クラブ」への勧誘は、
中盤から起こる事件に比べて存在感がないの
で、聡がストーリーに流されているだけに見
える。
 「いじめもテロも戦争も最初は心の中の問
題なんだよ」「違うよ。話し合うんだ」「人
殺しはもうやめて」と、(殺戮へ進む) スト
ーリーの流れに抗うけれど、それを覆すほど
強力な威力がない。
 平和を思う気持ちは描かれているけれど、
それを抱くに至った背景が不明なので、行動
に安定感がないんだと思う。
 上で挙げた3つの発言は、どれもケイへの
発言だけど、はじめの2つは、じぶんの「平
和主義」の思いからケイを止めているが、失
敗した。最後のひとつはケイへの慈愛の念か
らの発言で、これは成功した。が、いかに怒
り狂っていたとしても、この場面でいきなり
サキを殺すという流れはストーリー上不自然
で、読者は、殺意を失くして自然と考えるの
で、「聡が (旬の存在に関係なく) ケイへ影
響を与えた」という点がいまいち目立ってい
ない。
 作品の中心である聡とケイの心理描写は
「主役」なので、その動きが、ストーリーの
展開や他の人物とのかけあいの影に隠れがち
になっているのが惜しいと思う。

<旬のケイに対する思い>
 旬の存在は、ケイの裏切りの理由や、聡と
の類似など、物語の重要なキーになっている
のに、ケイ、トシ、サキの発言から間接的に
しか示されないので、存在感が弱い。旬のケ
イに対する感情は「オレを兄のように慕って
くれていた」というケイのセリフのみ。これ
は、じぶんに対することをじぶん自身で語っ
ているのだが、例えば、サキから見たふたり
の関係が「(聡が) ケイを独り占め」とされ
ているように、トシの視点で見たふたりの関
係もあれば広がりは増す。とはいえ、百聞は
一見にしかずで、ふたりの様子を描くシーン
を作れば、他人からの間接的な説明を積み重
ねることなく旬の存在やケイとの関係を過不
足なく示せると思う。
 「人を疑うことを知らない」「ツバメのヒ
ナを助けようとして」と性格を知る手がかり
もセリフにあるが、“旬がじぶんで話した言
葉”ひとつは、それらより重く、分かりやす
い。

<聡の旬に対する思い>
 聡はケイと友情を交わすことになるけれど、
エピローグで、ケイと共に、じぶんに似てい
るという旬のことも考えて、旬の存在にもひ
とつの着地点をつけたほうがよいのではない
か。
 というのも、まず、ケイが死んだ後、天使
のような姿で現れたことから、天国に行った
のでは… と思われる。旬もおそらく天国に
いるだろうと考えると、ラストに聡とケイだ
けを描くことは、ふたりの友情は強く描かれ
ても、「旬とケイは天国で会わなかったの?」
というような疑問もあって、旬が放ったらか
しになった感もある。
 例えば、「ケイ、旬君に会えたよね…」と
つぶやいたり、ケイといっしょに旬も現れた
りするなどして、聡の心の中に旬の存在が大
きく残っているようにするのもひとつの手。
ただし、それが不自然でないように、もちろ
ん中盤に聡が旬に対して絆を結ぶような描写
が不可欠となる。

 

<サキのケイが好き、またはそうでない描写>
 サキは旬に嫉妬するほどケイに注目してい
るのだが「おまえのためにケイが裏切ったの
よ」「ほんとにどうしてこんなことをしたの
よ」「目を閉じ、腕をケイの首に回しキスを
待つサキ」とそこそこケイに執着する描写が
あるものの、組織の掟 (言い換えればじぶん
の命) とケイの命を天秤にかけても、組織の
掟をとってケイを殺すことにしているので、
愛し方が曖昧で、自己保身的である。内面で
は葛藤などを抱えているのかもしれないが、
サキの描写そのものは (この原作での) 作品
の中心ではないし、その心理を明確に描き切
るにはそもそもサキの置かれた状況やサキの
思考が複雑すぎな感がある。
 好きなら好きでケイにつくなり、嫌いなら
嫌いで喜んで殺すなり、わかりやすい設定を
用いてもいいと思う。ただ、そうすると、も
ちろんサキにおける心理描写の魅力だった複
雑性はなくなるので、むしろ作品上のサキの
存在意義すらなくなるとも思うのだけど。

 ○ 現実離れしたもの

 舞台は現実的だけど、ストーリーや登場人
物の行動は首を傾げてしまうところも多い。
登場人物たちの行動について、読者が実際
「こんなときじぶんだったらどうするか」と
いう“重ね合わせ”の結果と大きなズレがあ
るので、読者はマンガの世界に入り込むこと
ができない。
 小さなことでは、序盤、「何だ、きさまは」
と問われて、ケイは「転校生だ」と返すが、
じぶんで「転校生だ」と名乗るだろうか?
いじめっ子側が「転校生かなんかじゃねえの
か?」と言うとかならいいかも。
 いじめから助けられたら「喫茶部でなんか
おごる」だろうか? ケイが校内で迷子にな
り、いじめに遭遇したということならば、聡
がお礼に道案内をかってでる、というような
こともできる。ふたりの会話は歩きながらで
もできる。
 キスをせがむ場面で「ああ。誰でもいい」
というのは、ケイはおそらく短剣を奪うつも
りなのでどっちでもいいのだろうが、トシの
ほうが「俺でいいか」と言い出すのはおかし
い。はじめから、サキが率先して「あたしで
いい?」と言うほうが、ケイへの好意もあっ
て自然だろう。
 ちょっと違うけど、新聞の見出しになった
「日本政府の政策は…」は長い。新聞の見出
しは簡潔なので。新聞の1面にこの事件の様
子を描きながら、ラジオやテレビの音声で具
体的なことを記したほうが分かりやすい。


 ○ ストーリーの本筋

 「命をかけて大切な人を守ろうとする思い」
が二つ目のテーマだけれど、中盤から終盤に
かけてのケイの行動を総合すると「まあ、命
をかけて守った… かな?」と思えるくらい
で、描写不足の感がある。
 「裏切りは死」で、体育館から聡を無断で
連れ出すことが「命をかけて守る」行為と言
えるが、例えば、聡を狙った弾丸をかわりに
受けるとか、そういった直接的ではないので
読む側には「命をかけても聡を守る」とする
ケイの強い思いが、その行動からはあまり伝
わってはこない。聡だけはヘリに乗せず、ヘ
リは撃墜されたという流れと、その後の新聞
報道による政府の方針の説明を取り上げると、
「結果的にそうなった」という形になってし
まっている。「○○の行動をとれば、ケイは
必ず死んでしまうだろうが、聡だけは助けら
れる」という認識を、ヘリの撃墜より前に読
者が持てるようにすれば、このテーマも本懐
を遂げられると思う。


 ○ 移動シーンがない

 この原作では、場面転換はあるけれど、場
所から場所へ移動しているシーンが少ないの
で (渡り廊下のシーンのみ)、舞台を動き回
る臨場感に欠けており、どこか切れ切れの印
象を受けてしまう。先に提案した「聡がお礼
に道案内をかってでる」という展開のように、
移動しながらのシーンを増やすことで、人物
だけでなく、世界そのものの動きも出ると思
う。

 * * *


 前に読んだときに比べて、どことは分から
ないけど、けっこう改善されているように見
えたよ〜。
 上に書いたのは“分析の眼”で見たものだ
から、すごく手厳しいっス。展開の違和感な
どは作画の仕方で解決・解消できるだろうと
思う点もあるんだけど、とりあえず書いた。
実際、ネームに起こしたら大丈夫だったとか、
そういうのもあるかもね。
 思い切った改稿をいうと、トシ、サキ、旬
をスパッと切って聡とケイへのフォーカスを
強めるとか、逆にページ数を増やして、5人
の少年少女の心理描写をもっと丁寧にすると
かがあると思う。
 根本的なことも問うと、そのふたつのテー
マを描くのに、ほんとにこのストーリーでな
くちゃダメなのか? ということ。命をかけ
て大切な人を守るという構図は、日常の中か
らも見出すことができるかもしれないよ。こ
のままでも、少女漫画っぽい、ありえないけ
れど魅力的で惹かれる、という感じはあるね。

               (おわり)

 

もうひとつのおまけ:さとうひろき氏による「テロリストとの約束・改稿の設計」

同じく、さとうさんが月川の漫画原作「テロリストとの約束」の改稿の設計を
寄稿してくれたのでここに掲載しておきます。

<テーマ>
ふたりの少年が築く心の絆
 →大切にしたい気持ち
 →守りたい気持ち

<キャラクター>
平和主義者
 →気弱、素直、臆病、勇気、純粋、博愛、
  希望
テロリスト
 →強攻、否定、憤怒、悔恨、憎悪、殺意、
  絶望

<人物相関> T=テロリスト
主人公
 →T少年:いじめから助けてもらう。友達
      になりたい
 →こども:同類心
T少年
 →主人公:こどもの姿を重ねる。守りたい
 →こども:一番大切だった。失った悲しみ
T少女
 →T少年:ちいさなときから片恋慕
 →こども:嫉妬。転落死させた
T青年
 →T少年:まとめ役。兄貴的
 →T少女:同上
こども
 →T少年:実の兄弟のように慕っていた

<ステップ>
いじめ
(*Aの心理)
学校占拠
廊下での言い争い(*Bの心理)
(!主人公の正念場)
放送室での攻防(*Cの心理)
(!T少年の正念場)
ヘリ撃墜
(*Dの心理)

<心理描写>

 主人公:平和主義、へこたれない、希望
 T少年:テロリズム、怒り、苛立ち

 主人公:暴力への抗い。T少年を止めたい
 T少年:こどもの姿を重ねる。主人公を守
     りたい

 主人公:T少年の悲しみを知る。癒したい。
     優しくしたい
 T少年:悔恨。主人公に心を見せる

 主人公:T少年を失った虚しさ。後、再び
     希望を取り戻す
 T少年:主人公に会いたい。元気づけたい

<娯楽性>
転がり=主人公とT少年の絆の強さ
 遭遇→丁寧なやりとり→加速→自己犠牲
枷→綾
 平和主義者→不信→理解→友情
 テロリスト→戸惑い→裏切り→決意→友情
お宝
 主人公にとってのT少年
 T少年にとっての主人公
 主人公とT少年が生き残って平和な日々を
 送ること

 T青年、T少女、テロリストグループ、心
 の揺れ
正念場
 廊下での方針の衝突、別行動
破れ
 己の無力、凄惨な現実に打ちのめされる主
 人公
泣き
 怒りに我を忘れるT少年を主人公がじぶん
 を与えることでおさめる
クライマックス
 こどもを巡る告白、T少年の吐露
オチ
 ヘリ撃墜、T少年の死、天使の姿をしたT
 少年との再会
印象
 廊下でT少年が主人公を組み伏せた後の沈
 黙の時間。窓から光が射しこみ、ふたりは
 その影にいる。遠くで銃声と悲鳴が響いて
 いる
ミッドポイント
 同上。主人公によってT少年の行動が覆る
テーマの確認→訴えかける何か
 主人公のひたむきに平和を訴える気持ちは
 T少年を変えた。T少年のほうに兄弟のよ
 うに慕ったこどもの存在を主人公へ重ねる
 気持ちがあり、それが鍵穴になったわけだ
 が、その扉を開ける鍵になったのは、主人
 公が博愛から、T少年ひとりへの慈愛へシ
 フトしたことでもある。つまり、序盤、中
 盤は友情を育む試練であり、互いに近づき
 合う時期であった。今まで主人公の制止に
 耳を貸さなかったT少年がT少女への殺意
 を砕かれる終盤にこそ真の友情を獲得する
 瞬間があったということである。全編を通
 じて軸になるのはこのような主人公とT少
 年の心の変化、影響の与え合いであり、ふ
 たりの少年が築く心の絆へと繋がるものと
 なる

<小道具>

 ボス:Bizon
 メンバー:基本的にAK-47
 T少年:M92、AK-47
 T青年:M92
 T少女:なし(ナイフのみ)
爆弾
 架空の気化爆弾。長辺8cm、厚さ2cmほどの
 直方体。小型。ボスのリモコンで着火。爆
 風で殺傷。威力半径10m。気圧への影響は
 描写しづらいのでなしとする。体育館爆破
 には20個ほど用いる。

                (おわり)