「デビル・モンキー」

〈あらすじ〉
京都の近郊に建っている封猿神社には、平安時代中期に京の都で暴れ
たため、源綱(みなもとのつな)によって退治された大猿が封印され
ていた。そういった歴史を知らない現在のヤンキー達は迷信だと思っ
て封猿石を引き落としてしまう。そして中から出て来た数匹の魔猿達
によって無惨にも殺される。テレビでその事件を知った京都市内の小
学6年生、星野龍は、不安を抱きながら登校し、転校生の日座陽助と
知り合う。校内を案内しているうちに龍は陽助に執拗に襲いかかられ
当惑する。陽助は平安時代から魔物退治を生業としている日座衆の頭
の跡取り息子で、頭の予知夢の通りに龍を襲ったのだ。そうしている
間に無数の魔猿が出現して小学校を襲って来る。龍と陽助はクラスメ
ート達と教室に避難するが、魔猿は教室の窓を破って子ども達を襲う。
龍のお守りの中から源綱の亡霊が現れ、それに呼応するように魔猿の
方も集合して1匹の巨大な大魔猿に変身する。陽助の妖術で龍と陽助
は巨大化し、二人で協力して大魔猿をやっつける。

〈舞台設定〉
現在。京都近郊の神社と京都市内の小学校。

〈キャラクター設定〉
星野龍:小学6年生。生徒会長。身長160センチ、体重50キロ。
日座陽助:日座衆の頭の息子。身長155センチ、体重40キロ。
大魔猿:平安時代中期に京の都で暴れたため、源綱によって退治され
    た大猿が魔界で変容してなった魔物。顔には歌舞伎役者のよ
    うな隈取があり、恐ろしげな顔立ちをしている。
飛び郎:日座衆の一員。忍者のような風体の25才くらいの男。
源綱(みなもとのつな):平安時代の武将の格好をしている。亡霊。
女先生:35才。動物愛護協会会員。
その他、数人の日座衆や龍の母親など。


◯ 封猿神社の境内(夕方) 
京都の郊外にある古めかしい神社の境内。
数人のヤンキーが酒盛りをしている。
ヤンキーA「この神社ってさ〜、大猿が封印されてるんだってな」
ヤンキーB「平安時代の話ってんだろ。迷信、迷信」
ヤンキーC「そうだよな。じゃあ、この封猿石とやらをどけてみるか」
ヤンキーA「うぃっしゃ〜」
  大きな石がヤンキー達によって動かされ、直径1m程の穴が
  出現する。
ヤンキーB「なんか見えるか」
ヤンキーA「なんも」
ヤンキーC「ん?」
  突然、猿のような生き物が数匹、穴から飛び出してくる。
ヤンキーB「うわあ〜っ」

◯ 龍のマンション
  京都市内にあるマンション全景。

◯ 龍の家・ダイニングキッチン
  テレビを見ながら朝食を取る小学6年のスポーツマンタイプの
  少年(龍)と母親。
  テレビ画面には神社の前で事件の報告をするレポーターの姿。
レポーター「少年達の遺体には動物に咬まれた痕が無数にありまし
 た。野犬の仕業ではないかと思われます」
龍「ほんとに野犬に噛まれて死んだのかな?」
母親「さあ」
龍「封猿石が動かされてたんでしょ。なんかイヤな予感がする」
母親「大丈夫。遠い所の話よ。私たちには関係ないわ」

◯ 小学校
  6年1組の教室。
女先生「今日は転校生の紹介をします。日座陽助君です」
  やや小柄で女形のように美しい少年が口を開く。
陽助「初めまして。俺は平安時代から続く特殊な仕事をしている一族
 の子孫で、旅芝居のようなこともやっています」
  女子児童達は憧れのまなざしで、うっとり見つめる。
女先生「あそこが日座君の席よ。隣は生徒会長の星野龍君」
龍「よろしく」
  陽助は龍をキッと睨みつける。
龍(M)「う、なんで睨むんだろ」

◯ 小学校・校舎の裏
  陽助に校舎を案内してまわる龍。
龍「これがニワトリ小屋だよ」
  陽助がいきなり龍をドンと突き飛ばす。
龍「イタタタ。何するんだよ」
陽助「おまえは魔物のニオイがする」
龍「ウソだろ?そんなはずが…」
  陽助が龍に飛び蹴りをしてきて、龍が倒れる。
龍「やめろよ。いい加減にしてくれ」
陽助「おまえは何者だ。正体を現せ」
龍「それはこっちが言いたいセリフだ」
  上になったり下になったりの取っ組み合いになる。
  龍を組み敷いた陽助が勝ち誇ったように
陽助「俺のことを教えてやろう。俺の一族は日座衆といってな、
 平安時代から続く魔物退治専門の戦闘集団さ」
龍「日座衆? 魔物退治?」
陽助「俺の父上はその日座衆の頭なのだ」
龍「それが僕とどういう関係があるんだよ」
陽助「よく分からんのだが、父上の予知夢ではこうなっているのだ」
龍「予知夢だって?冗談じゃないよ。」
陽助「父上は未来のことが予知できるのだぞ」
龍「僕は魔物なんかじゃないっ」
陽助「そうかな」

◯ 異空間の中
  陽助は消え、周囲は砂漠になっている。
  驚いて立ち上がり、周囲を見回す龍。
龍「いったいどうなっているんだ」
  砂に胸から下が埋まった女が助けを求めている。
女「助けてー」
龍「待ってて下さい。今すぐ助けます」
  龍は女の手を引っ張る。
  砂から出て来た女の下半身はサソリになっている。
女「ふははは」
  次第に女の顔は陽助の顔に変わり、大口を開けて龍に襲いかかる。
龍「日座君」
女「サ〜ッ、正体を現せ〜っ」
  女は手で龍の首を絞めてくる。
龍「た、助けてー」

◯ 小学校・校舎の裏(元の場面)
  陽助に乗っかられた龍がジタバタ暴れている。
  二人の近くに忍者のような姿をした大人の男(飛び郎)が現れる。
飛び郎「陽助様」
陽助「飛び郎か。何の用だ」
飛び郎「大変でございます。遊んでおられる場合ではございません」
陽助「遊んでおるのではないわ〜っ」
飛び郎「おびただしい数の魔猿どもが町を襲っております」
陽助「なんだと」
  キーキーと鳴きながら小学校の中にも魔猿達が侵入して来る。
陽助「魔猿(デビル・モンキー)だ」
龍「う。なんなんだ、こいつらは」
  魔猿は魔物なので、顔には歌舞伎役者のような隈取があり、恐ろ
  しげな顔立ちをしている。
  陽助と龍は立ち上がり、魔猿を追い払おうとする。
龍「しっ、しっ。あっちへ行け。小学校から出て行くんだ」
  魔猿は逃げるそぶりを見せ、塀や木の枝に止まってこちらを見る。
  徐々に魔猿の数が増えてくる。
校内放送「緊急事態です。猿がたくさん来ています。外にいる人は教
 室に戻りなさい」
陽助「飛び郎、おまえは父上のところへ行け」
飛び郎「わかりました」
陽助「俺達は教室に戻ろう」
龍「うん」

◯ 教室
  女先生が携帯電話をかけている。
女先生「警察ですか。小学校にすごい数の猿がきてるんです。すぐに 
 捕まえに来て下さい。えっ、なんですって」
龍「どうしたんですか、先生」
女先生「どこも猿がいっぱいでパトカーは出払っているんですって」
  女先生が教室のテレビをつける。
  画面には猿がスーパーマーケットに溢れ、好き勝手に食べ物を略
  奪してむさぼり食っている様が映し出されている。
  そして買い物客や警備員たちが猿に襲われ、血まみれになって逃
  げ回っている様子も映っている。
  血まみれで恐怖に歪んだ女性の顔や魔猿の顔のクローズアップ。
  わっと驚く女先生と生徒達。
龍「なんてことだ」
  陽助はバク転し、忍者のような格好に変身し、背負っていた刀を
  抜いて身構える。
陽助「先生、奴らは俺に任せて下さい」
女先生「なんなの日座君、その格好は。動物を殺すことは先生が許し
 ませんよ」
陽助「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう、先生」
女先生「私は動物愛護協会の会員です。どんなことがあっても彼らを
 傷つけてはいけません。助けがくるまでじっと待つのです」
  猿達が一斉に教室の窓ガラスをガシャーンと割って襲って来る。
女子児童達「きゃーっ」 
  抱き合ったり、単独で逃げ回ったりする女子児童達。
  魔猿に切りかかろうとする陽助。
女先生「日座君、ダメ。暴力はいけないわ」
陽助「(静止して)ちぇっ」
  1匹の魔猿が女先生の顔に飛びかかり噛みつく。
女先生「ギャ〜ッ」
龍「先生」
  続々と魔猿達が先生や女子児童に襲いかかり、血が飛び散る。
女先生「タスケテ〜ッ」
  龍や男子児童達はカバンや箒を振り回して魔猿達に立ち向かう。
女先生「殺して。こいつらを殺しなさい」
陽助「いいんですか?」
女先生「(血まみれで痛みのために涙を流しながら)早くー」
陽助「せいや〜っ」
  刀で魔猿達をビシュビシュッと斬り殺して行く陽助。
龍「天国のお父さん。見ていますか。とうとうお父さんが言っていた
 時が来たようです」
  龍はズボンの後ろのポケットからお守り袋を取り出し、中身を取
  り出す。
  中から出て来た黄金色に輝くお札を魔猿達に向けて差し出す龍。
  お守りから強い光が出て平安時代の武将姿の亡霊が現れる。
  魔猿達が驚いてフリーズする。
陽助「うわっ、何者だ」
源綱「私の名前は源綱(みなもとのつな)」
龍「僕のご先祖様だ」
源綱「私が退治したはずの猿の群れが蘇ったようだな。封印を解いた
 者がいるのか」
  源綱が刀を振り回すと魔猿達はキーキー叫んで猿の毛に変身し、
  その毛は窓から外へ出て行く。
源綱「まてー」
  源綱も毛を追って窓から出て行く。

◯ 小学校の校庭
  魔猿が変身してできた毛はあちこちからどんどん集合してきて
  竜巻のようになる。
  やがてそれは10m位の巨大で醜悪な一匹の大魔猿になる。
  その前に源綱が毅然と立っている。
  龍と陽助も校庭に出て来る。
大魔猿「ふふふふ。源綱か。久しぶりじゃのう」
源綱「化け物め。よくもそんなに大きくなったものだな」
大魔猿「虐げられてきた野猿どもの怨念がこの身に集まってきたのだ。
 今ではおまえなぞには決して負けないぞ」
  大魔猿の毛は1本1本が生き物のようにうねっている。
源綱「ほざくなっ。あの時と同じように成敗してくれるぞ。くらえっ」
  源綱は大魔猿に向かって刀を振り上げてかかって行くが、あっけ
  なくヘチャと踏みつぶされてしまう。
源綱「あやっ」
龍「あ〜っ」
陽助「弱っ」
大魔猿「ふははは。なんたるざまよ」
  大魔猿は源綱をつまみ上げて食おうとする。
龍「食われるっ」
源綱「こら、なにをぼんやり見ておるのじゃ。早く助けにこんかい」
  源綱に言われて龍が大魔猿に向かって駆け出す。
龍「まてーっ」
陽助「なんて無茶な奴なんだ。勝てるはずがない一般人のくせに、素
 手で向かって行くなんて」
  龍は大魔猿の足にしがみつくが蹴飛ばされてしまう。
龍「わーっ」
  どすんと地面に叩きつられても再び大魔猿に向かって走る龍。
大魔猿「ふふふ。バカめ」
陽助「しかし、見上げた根性だな」
  陽助が空中に浮かび、大魔猿の周りを飛びながら呪文を唱える。
陽助「なむそうるかじょ、なまるしかるじ。は〜っ」
  大魔猿と同じ位の大きさに巨大化する龍と陽助。
  驚く大魔猿。
  龍も驚く。
龍「うおおお〜っ」
  巨大化した龍が校庭の大魔猿の正面に迫る。
  龍が大魔猿に飛び蹴りを食らわし、立ち上がって来た大魔猿の肩
  を陽助が切る。 
大魔猿「ギャーッ」
  大魔猿は源綱を落とし、狂ったように暴れ回る。
  毛からまた無数の魔猿が派生してくる。
陽助「しまった。チビどもが出てきやがった」
飛び郎「陽助様—、われらも加勢にきました」
  大魔猿の周りで日座衆が呪文を唱え妖術を操る。
  大魔猿はにわかに苦しみ出す。  
大魔猿「グオ〜ッ」
陽助「なみはたるみかるじ。そるぜがをじなむき。は〜っ」
  大魔猿の下の地面に穴があき、ドドーンと落ちて行く。
大魔猿「ウオオオオオ〜」
  大魔猿を飲み込んだ地面はふっと元に戻る。
  魔猿達も消えている。
陽助「終わった」
源綱「よくやった。これであやつはこの世には二度と出てこれまい。
 おまえ達がいる限りこの世は安泰じゃ。今後のことは頼んだぞ」
龍「はい。ご先祖様」
源綱「それでは、私もそろそろ消えるとするか」
  源綱もふっと消える。
龍「あ、ご先祖様」
  黄金色の札が龍の足下に残される。
  札を手に取る龍。
陽助「あのな、ちょっと言いにくいことなんだけど」
龍「なに?」
陽助「あの人は自分じゃ気がついてなかったみたいだけど、あ
 の人自身も魔物だったんだよ」
龍「えっ、ほんと?」
  少し気味悪そうに源綱が入ったお札を人差し指と親指でつまむ
  龍。
陽助「まあ、とにかく、この世の平和を守るため、これからも頑張
 ろうぜ」
龍「よっしゃ〜」
  龍と陽助がハイタッチする。
                          (おわり)