「会えてよかった」

〈あらすじ〉
お婆ちゃんとお祭りから帰った後、仏壇に飾られている男の子の写真に優
希は気付いた。小さい時に誘拐されて殺されたお兄ちゃんだった。お婆ち
ゃんと優希との心の交流………だけじゃなくて、最後にはどんでん返しの
ようなものもあります。

〈登場人物〉
優希:6才位。素直で優しい美少年。
千恵美:74才の未亡人。
その他、優希の両親(元ヤンキー)と兄妹等。

〈本文〉
○  祭りの夜店街
  お面を頭につけて、ヨーヨー釣りをする  
  浴衣姿の優希。
  ヨーヨーを落としてキャハハハと笑う。
  そばで千恵美が写真を撮っている。
  千恵美は優希とおそろいの浴衣姿。
千恵美「ユウ君、こっち見て。はい、チーズ」
優希「ちーず」
  カメラに向かって両手でピースのポーズ
  をとる優希。
千恵美「ふふふ。おりこうさんね。そろそろ
  お家に帰ろうか」
優希「うん」
  手をつなぎ、笑顔で幸せそうに歩く二人。
  優希の手には綿菓子とヨーヨーが。
千恵美「パパのお仕事、うまくいってるの?」
優希「うん。このごろは まいにち ごはんが
 たべられるよ」
千恵美「そう。よかったね」
優希「でもね、パジャマはずっとやぶけたま
 ま」
千恵美「(苦笑しながら)それは困ったね」

○ 町屋風の千恵美の家
優希「ただいまー」
  下駄を脱いで勢いよく部屋の中に入って
  来る優希。
千恵美「これこれ、そんなに走っちゃ危ない
 よ」
優希「きゃはは」
  優希は、つかまえ遊びでもしているかの
  ように、はしゃぎ回り、仏壇に飾ってあ
  る6才位の男の子の写真を見つける。
優希「あれ。おばあちゃん、このこ だれ?」
千恵美「孝太だよ」
優希「ぼくのおにいちゃん?」
千恵美「そうなるね」
優希「いま、どこにいるの?」
千恵美「…天国」
優希「なんで?」
千恵美「誘拐されて殺されちゃったの。首し
 められてね」
  顔を歪ませ、泣きそうになる千恵美。
優希「あ、ないたらだめ。おばあちゃんには
 ぼくがいるよ」
千恵美「そうだね。ユウ君がいるよね」
優希「うん」
千恵美「でも、お婆ちゃんも、もうすぐ天国
 へ行くのよ」 
優希「だめー。いったらだめ」
千恵美「どうして?」
優希「だいすきだから」
  千恵美の目から涙がこぼれ落ちる。
知恵美「お婆ちゃんもユウ君のこと大好きだ
 よ。でも、ガンが転移しちゃったから仕方
 ないのよ」
優希「わーん。おばあちゃんがしんだらぼく
 も しぬ」
千恵美「だめだめ。死んだら、棺桶に入れら
 れて焼かれちゃうのよ」
優希「いいよ。ぼくもおばあちゃんといっし
 ょに かんおけで やかれるんだ」
千恵美「だめよう、ユウ君。絶対にだめ」
優希「うわー、おばあちゃん、おばあちゃん」
  千恵美に抱きついて来る優希。
  優希を抱きとめ、千恵美も泣く。
千恵美「ユウ君に会えてよかった」
優希「ぼくも おばあちゃんにあえてよかっ 
 た」
千恵美「生まれて来てくれてありがとう、ユ
 ウ君」
優希「おばあちゃんも うまれてきてくれて 
 ありがとう」
  優希の頭を撫でる千恵美。
千恵美「ユウ君はほんとにいい子だね」
優希「うん」
千恵美「お婆ちゃんが死んだら遺産は全部ユ
 ウ君にあげるわ」
優希「いさん いらないから ながいきして」
千恵美「ユウ君」
  ピンポーンとチャイムが鳴る。
優希「あっ、ママのおむかえだ」
千恵美「もうそんな時間なの」
優希「きょうはおばあちゃんちにとまりたい」
千恵美「うん。ママにお願いしてみようね」

○ 玄関
  優希の母が迎えに来ている。
母「そろそろ時間だから連れて帰るわ」
優希「かえりたくないよ」
千恵美「泊まらせちゃだめ?」
母「無理ね。予定があるし」
千恵美「あと1時間の延長もできないかしら」
母「孝太か美咲ならあいてるけど」
千恵美「ユウ君がいいのよ」
母「やっぱりね。じゃ、来週の水曜日にまた
 連れてくるわ」
千恵美「お願いするわね。あ、これ今日の分。
 多めに入れといたからパジャマでも買って
 あげて」
  封筒を母に渡す千恵美。
母「あんがとー。じゃ、ユウ君、バイバイな
 さい」
優希「お婆ちゃん、バイバーイ」
  母に手をひかれ、もう一方の手を振る優
  希。
千恵美「ユウ君」
  手を振り返し、目にいっぱい涙をためて
  二人を見送る千恵美。

○ ワゴン車の中
  優希の父や兄妹らがいるワゴン車へ優希
  と母が乗ってくる。
優希の兄「かあちゃん、はらへった」
母「わかってるよ、うるさいね」
  千恵美にもらった封筒の中身を調べ
母「ラッキー。1万円も余分に入ってたよ」
父「うほっ、あとで回転寿しにでも行くか」
優希の妹「ごうせいだなー」
  上腕に入れ墨をし、耳や唇にピアスをし
  た父が運転を始める。
  優希は母に浴衣を脱がされ、ボーイスカ
  ウトの服装に着替えさせられている。
父「急げよ」
優希「かっこいい おようふくだな」
母「次のお客さんは誰だっけ?」
父「世田谷の藤井さん。愛犬天国の会長だっ
 てよ」
母「ご新規さんだね」
父「ああ」
母「ユウ君、新しいお爺ちゃんの家には犬が
 いっぱいいるよ、たぶん」
優希「わーい、うれしいな」
父「ほんとにおまえは孝行息子だな」 

                (おわり)