聖子と聖矢

〈あらすじ〉
高校1年生の聖子が好きになった同い年の聖矢は、4つの時
に別れた双子の兄だった。二人が踏切事故で怪我をしたこと
がきっかけになって離婚した両親のよりが戻る。

〈登場人物〉
川島聖子:高校1年の美少女。
山口聖矢:聖子の双子の兄。格闘技が得意な
     美少年。
野口俊恵:聖子の親友。小柄な眼鏡っ子。
ママ:聖子の母親。35才。化粧品会社勤務。
パパ:聖矢の父親。40才。柔道の師範。
少年A:ゲームセンターの不良
少年B:ゲームセンターの不良
その他、三輪車に乗った幼児など。

〈本文〉(Mはモノローグです)

ゲームセンター
  プリクラを撮る私服姿の聖子と俊恵。
俊恵「いやだ−。聖子ったらまた目つぶっち
 ゃってるよ」
聖子「ほんとだ」
少年A「よっ、俺達もご一緒させてもらって
 いいかな」
  突然、不良っぽい少年2人が入ってくる。
聖子「(きっぱりと)いやです」
少年B「なんだと、その言い方は」
少年A「むかつくな。犯したろか、おまえ」
  少年Aは聖子の腕をつかむ。
聖子「いゃ〜っ、 誰か助けてー」
  わ〜っと泣き出す俊恵。
  カーテンがパッと開けられる。
聖矢「やめなよ」
少年A「なんだおまえは。引っ込んでろ」
  聖矢を突き飛ばそうとする少年A。
  聖矢はよけて、少年の腕をねじ上げる。
少年A「あいてて。すんません。許して」
少年B「われ、離さんかいー」
聖矢「はいよ」
  少年Bがかかってくるので少年Aの腕を
  離してぶつける。
少年B「ぐわっしゃ〜」
  二人ともドドンと倒れて、聖子と俊恵の
  足下に転がってくる。
聖子「すごい」
俊恵「強いです〜」

◯ ハンバーガー店
  ハンバーガーを頬張る聖矢。
  聖子と俊恵も食べている。
聖子「ほんとに助かったわ。ありがとう」
聖矢「べつに。大したことしてないよ」
聖子「私、川島聖子っていいます」
聖矢「オレは山口聖矢。偶然だな。聖矢と聖
 子か」
俊恵「盛り上がっちゃってるとこ、悪いんで
 すけど、私は野口俊恵。トンちゃんで〜す」
  聖矢は俊恵にはあまり興味を示さず
聖矢「せいこってどんな漢字?オレはセイン
 ト聖矢の聖矢なんだけど」
聖子「セイントセイヤって何?」
  ずっこける聖矢。
聖子「私のセイは聖人君子の聖なんだけど」
聖矢「いっしょだよ。そういや、小学校の時
 の担任の先生の名前が宏で、奥さんが宏子
 さんだったなあ」
俊恵「(目を輝かせ)じゃあ、二人は結婚する
 運命かもですよ」
聖子「いやだわ、トンちゃん。会ったばかり
 なのに」
  下を向いて頬を赤らめハニかむ聖子。
  聖矢の方もポッと赤くなる。


聖子の団地
  夕食の準備をする聖子とママ。
  ウキウキした様子の聖子。
聖子(M)「聖也君、いい食べっぷりだったな」
ママ「なんかいいことがあったみたいね」
聖子「あたり〜」
ママ「いいわね、若い子は。恋の季節ですか」
聖子「ママだってそんな時期はあったでしょ」
ママ「そりゃね。でもあっという間に終わっ
 ちゃったわ〜」
聖子「ねえ、パパと離婚したこと、悔やんで
 ない?」
ママ「う〜ん、素敵な人だったから、悔やん
 でないと言ったらウソになるかもしれない
 けど」
  ママは聖子の前髪をあげる。
  聖子の額には古い一生傷が付いている。
  ママは傷跡に触れる。
ママ「パパはね、4つの女の子に格闘技の特
 訓なんかして一生傷を負わせちゃった人な
 の」
  無言で傷跡に触る聖子。
ママ「これ以上一緒に暮らせないと思って聖
 子を連れて飛び出してきちゃった」
  ママに抱きつく聖子。


放課後の学校の校門付近
  聖子と俊恵が門から出てくる。
  自転車で通りかかる聖矢。
俊恵「聖矢君だ」
聖子「聖矢くーん」
聖矢「あ」
  聖矢は行き過ぎてから振り返る。

○ 路上(下りの坂道)
  自転車を押しながら歩く聖矢。
  横に聖子。
  俊恵は聖子の後ろを歩いている。
聖矢「意外と学校近かったんだな」
聖子「そうね」
俊恵「いつか巡り会う運命だったのですよっ」
聖子「また、その話〜。やめてよ」
聖子(M)「でも、聖矢君と話しているととて
 も楽しい。ずっと一緒にいたい…」
聖矢「話、変えようか。あ、そうだ。オレも
 うすぐ誕生日なんだよ」
聖子「プレゼントの催促かしら?私の誕生日
 も来月の24日なんですけど」
聖矢「12月24日?オレといっしょだ」
俊恵「私は先月だったっス」
  しょんぼりする俊恵。すぐに閃いて
俊恵「ちょっと待って下さいよぉ。誕生日ま
 で一緒ってことは、出来過ぎですよぉ」
  聖矢と聖子は無言で顔を見合わせる。
聖子(M)「なんだかいやな胸騒ぎ…」
  胸を押さえる聖子。
俊恵「(眼鏡を直しながら)ちょっと、何か踏
 み切りの様子が変ですよ」


踏切
  三輪車に乗った幼児が遮断機の降りた踏
  切の中で脱輪して泣いている。
  電車が近づいてくる。
  遮断機の両側から人々が「こっち来なさ
  い」とか「逃げるのよ」とか叫んでいる
  が叫ぶだけで誰も助けに行こうとしない。
  聖子と聖矢は二人同時に「助けなきゃ」
  と叫び、聖子が先に走り出す。
  聖矢はすぐ後に続く。
俊恵「ダメぇ、もう間に合わないですぅ〜」
  立ちすくんで絶叫する俊恵。
  踏切内に入る聖子。
  聖子のすぐ後を追う聖矢。
  なんとか幼児を助けるが、もうちょっと
  というところで2人とも電車に接触して、
  はね飛ばされる。
聖子(M)「あ〜っ。死ぬ時もいっしょなんだ」
俊恵「(顔をおおって)きゃ〜っ、もうお終い
 です」


病院の病室
  目覚める聖子。
  すぐ近くにママがいる。
ママ「聖子、聖子」
聖子「ママ」
ママ「よかった気がついたのね」
聖子「三輪車の子は?聖矢君は?」
ママ「子どもはかすり傷ですんだわ。聖矢君
 は」 
聖矢「ほれ、この通りだ」
  腕を包帯で吊った聖矢の姿。
聖子「(ほっとして)よかったぁ」
ママ「それより聖子よ。一週間も意識が戻ら
 なくて。すっごく心配したのよ」
聖子「一週間も」
ママ「その間にママね」
聖子「なに?」
ママ「パパと復縁したの」
聖子「え〜っ、ア、アイタタ」
  上半身を急に起こし、頭を押さえる聖子。
聖矢「大丈夫か?無理しちゃだめだよ」
  パパが息せき切って部屋に入ってくる。
パパ「聖子。気がついたんだってな。よかっ
 た、よかった」
聖子「パパなの?」
パパ「そうだよ。聖子、いい子に育ったな」
ママ「聖矢もよ。人を助けるために二人一緒
 に電車にはねられるなんて」
パパ「さすがに双子だね」
聖子「(ショックを受けたように)双子」
パパ「助かったから言えるのかもしれないけ
 ど、僕たちの育て方は間違ってなかったん
 だな」
ママ「そうね。ふふ」
  パパに幸せそうに寄り添うママ。


聖矢の家
  大きな屋敷に引っ越し荷物を運ぶ聖子達。
パパ「ここが聖子の部屋だよ」
聖子「わ〜っ、素敵」  
聖矢「じゃあ、今日からオレのことはお兄ち
 ゃんと呼んでもらおう」
聖子「うそ〜っ、私の方が先に生まれたって
 ママが言ってたわよ。だから私がお姉さん」
聖矢「先に腹の中に入ってたのはオレの方だ
 からオレが上だ、おまえそんなことも…」
聖子「おまえって呼び方しないでよ」
パパ「おいおい、さっそく兄妹ケンカかい」
ママ「役所には聖矢の方を先に届けたから聖
 矢がお兄さんなのよ」
聖矢「おーし。勝ったぞ〜」
聖子「なによ、その言い方は。くやしい〜」
聖子(M)「でも本当はとっても幸せ」
  にぎわいを俯瞰図で描いてFinに。

               (おわり)